
STAENマガジン【注目の自治体シリーズ】では、スタートアップを応援する熱い自治体担当者にフォーカスし、自治体独自のスタートアップ支援や担当者の思いを紹介しています。
今回は横須賀市の高橋信一郎氏・永田翔吾氏にインタビューを行いました。
情報通信技術が集積する都市「横須賀市」
―まず横須賀市の特徴や課題を教えてください。
永田氏)
横須賀市は神奈川県南東部の三浦半島の中心部に位置し、約38万人の人口を有する中核市です。東京から50km圏内にあることから都心へのアクセスも比較的良く、都心ではあまり見られない農山漁村的な環境も持っていることが強みです。東は東京湾、西は相模湾に面し、三浦半島中央部は丘陵地帯となっていることから平地が少なく、人口は東京湾側に集中する傾向にあります。
当市の産業の中心は製造業であり、現在では輸送機が市全体の製造品出荷額の6割以上を占めています※1。日産自動車追浜工場、総合研究所や住友重機械工業横須賀製造所をはじめとする製造業の拠点に加え、市内各地に製造業を中心とした工業団地が点在します。この背景には幕末から明治にかけて横須賀に日本で最初の近代的な造船所が建設されて以降、造船の街として軍艦の製造と修繕が盛んに行われ、戦後は日産自動車や関東自動車工業(現:トヨタ自動車東日本)など自動車産業が拠点を構えたことで長きにわたり、輸送用機器が産業の中心的な存在であったという歴史的経緯があります。
また、日本電信電話公社※2の研究センター(1972年竣工)の設立など、情報通信技術の蓄積を生かし、1990年代からは情報通信産業の研究開発拠点の集積にも力を入れ、日本最先端の情報通信・電波等の研究開発拠点である横須賀リサーチパーク※3を設立しました。ここには、前述したNTT横須賀研究開発センタやNTTドコモR&Dセンタをはじめ、電波・情報通信技術の発展を目指す公的研究機関や、企業の研究所が集積し、基礎から最先端に至る幅広い分野の研究開発活動が行われています。
※1 横須賀市2019年工業統計調査
※2 現在の日本電信電話株式会社、通称NTT
※3 通称YRP。最大の成果は第三世代携帯電話(3G)普及における肝となった端末間電信ソフトに係る研究をけん引したこと。昨今は 情報通信産業の変化に対応するべく、ベンチャー等の小規模事業体向けのオフィス提供を進めるとともに、情報通信分野以外の研究機関誘致を進めている。
画像は横須賀リサーチパーク
横須賀市提供
「予算拠出なし」実証実験の支援モデル
―横須賀市の特徴を活かした取り組みなどは行われているのでしょうか。
高橋氏)
私たちが所属する創業・新産業支援課が主導するプロジェクトとして、「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ(以下:スカモビ)」を2018年度より展開しています。
ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ

画像はスカモビHPより抜粋
スカモビは単に交通に関する課題解決を図るという目的ではなく、モビリティはあくまで手段として、“持続可能なまちづくり・横須賀の活性化“を目的として取組を進めています。また、他自治体と異なり”創業・新産業支援課“というインキュベーションを担当する部署が主導している点も特徴の1つと考えており、実証・実装に取組む企業の方々へのサポートをしながら、一緒に実装の在り方を考えていくことに重きを置いた取組を進めています。
これまで4年間の活動は、様々な企業の方々との連携・協力を通じて、市内において21件の実証実験(2020年度は12件)※4を実施してきた実績があります。
※4 楽天やANA、NTTドコモ等、大企業中心の実証実験。スタートアップの実証実験支援も進む。
スタートアップの実証支援例:https://aeronext.co.jp/news/yokosuka_flyingbeefbowl/
横須賀市提供
スカモビの特徴の1つに「横須賀市として実証実験に対する予算を拠出しない」ことがあります。これは、最終的なゴールとして、“ビジネスとしての成立”を目指しており、市と企業の関係が「発注者」と「受注者」ではなく、あくまで対等な立場で、実装の在り方を地域とともに考えていくことを重視しているからです。
そのような背景もあり、これまで大企業の方々を中心に実証実験などに取り組んできたところですが、全国展開を念頭においた設計である(地域ならではのことを反映しづらい)ことや、コスト面の課題などから、近年では、地場の企業の方々やスタートアップの方々とも連携した実証実験に取り組むべく、検討を進めているところです。
―予算拠出をしないからこそ、自治体としてもスピード感をもって多くの事業を支援できるという良さもあると感じました。
スカモビを永く続く事業へ
―まず改めてお二人の業務について教えてください。
高橋氏)
私は、中央省庁からの出向者というバックグラウンドがあるので、スマートシティやスマートモビリティ等の政府関連動向との連携が大きなミッションの1つだと認識しています。特にスカモビでは、前述のとおり市からの予算拠出なしという特徴がありますので、中央省庁の補助金や実証支援の枠組みを活用することは生命線であるとも言えます。そのため、スカモビの方向性と政府関連動向が一致しているか、活用できそうな補助金などの枠組みがないか等の戦略検討・企画立案に尽力しております。
永田氏)
私は横須賀市のプロパー職員です。2017年度、2018年度の2年間、全国市長会に出向し中央省庁と地方自治体の連絡業務を経験しました。その経験から実際の課題は現場にあると強く感じたことから、帰任後の現在では、事業の戦略と現場を接続させていくことが私の仕事であると考えています。課内のスカモビ事業に携わる職員5名と一緒になって試行錯誤しながら進めています。
―スカモビ事業の担当者として将来的にスカモビをどのようにしていきたいのでしょうか。
高橋氏)
中央省庁も地方自治体も人事異動があり、キーマンの異動を機に事業の方向性が変わってしまうことが散見されます。スカモビは立ち上げ当初から産学官の連携体制を構築していることも特徴の1つであり、このような検討体制の具体化、発展を図るなど、事業を進めるうえでのフレームワーク(枠組み)部分を後年度に継承できるようにしていきたいと考えています。
永田氏)
高橋と同様、枠組みの作成は非常に重要だと認識しています。参画する各者の役割と業務のすみ分けなども議論をしていく必要がありますが、最終的な到達目標について参加者全体が共有できるようなモデルを示すことが重要になってきます。また、運営体制の構築と共に、横須賀市外の事業者が横須賀市で何かを試したいと思えるような、また当市で事業を展開してよかったと思って頂けるような環境の整備に邁進していきたいです。
編集後記:
私がまず驚いたことはスカモビ事業が開始から3年弱しか経過していないのにもかかわらず、21件もの実証実験支援を既に行っていることです。横須賀市は新規性や継続的な変化が要求される情報通信産業で発展してきたことから「実証を積極的に行う土壌」があることはもちろんですが、それ以上に「予算拠出がない」スカモビの持つ特徴の強みが表れているのではないかと感じました。「今後はその対象を大企業にとどめず、スタートアップを巻き込んで実証実験を実施していくことが求められる」と高橋さんは仰っていました。今後どのように制度設計を行い「ビジネスとして成立し得るスタートアップ」の創出支援に貢献していくのか、注目して見ていきたいと思います。
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