
宿泊先の選択を大きく広げてくれたAirbnb(https://www.airbnb.com)。空いている部屋や家を使わない期間がある人と、宿泊場所を探す人をマッチングするWebサイトです。
宿泊費を抑えたいときや、ホテルが少ないエリアで宿泊先を探すときに特に便利。貸す側も、空き部屋を利用して、手軽に収入が得られます。
Airbnbは、日本で国内旅行やパック旅行を主に利用される方には、あまりなじみがないかもしれませんが、アメリカやカナダなどでは、旅行を計画するときに、最初に宿泊先探しに利用するような、誰もが知る「超」メジャーなWebサイトです。
2021年6月末時点でAirbnbには、220以上の国と地域にある5600万室の宿泊場所が登録され、宿泊場所を提供するホストは400万人、Airbnbを使って宿泊した人は、2021年9月までにのべ10億人以上*。2019年の売上高は48億ドル。パンデミック下の2020年も34億ドル**でした。
そんなAirbnbが産声を上げたのは2007年。今回は、その翌年2008年に60万ドル(日本円で約6900万円)の資金調達に成功したという***ピッチを見てみましょう。
アーリー期のスタートアップがすぐに真似できるポイントがたくさんあります。ぜひ自社のピッチと比較してみてください。
実際のピッチ(2008年)
ピッチの構成と各ページの内容
P1 表紙
社名(当時は、Air Bed and Breakfast)とキャッチコピー
P2 課題:旅行者が抱える宿泊先の課題
①料金
②ホテルではその町や文化を感じることが難しい
③地元の人から部屋を簡単に借りたり、部屋を簡単に貸したりする方法がない
P3 解決策:部屋や家を旅行者に貸すことができるWebプラットフォーム
(ベネフィット)
①「節約する」旅行の時のお金を節約できる
②「利益を得る」貸すことでお金を得られる
③「シェアカルチャー」地域とつながれる
P4 マーケット・バリデーション
①Couchsurfing.com(無料で部屋を貸すコミュニティ)のユーザ数66万人
②Cragigslist.com(地域情報交換コミュニティ)の貸室数5万(7/9~7/16アメリカ)
P5 市場規模
①世界中で予約されている旅行20億ドル(総市場:TAM)
②予算とオンライン5億6000万ドル(サービス提供可能な市場:SAM)
③Airbnbを使った旅行8400万ドル(市場の15%:SOM)
P6 製品
都市で検索する→表示されるリストを見る→予約する
P7 ビジネスモデル
取引ごとに10%の手数料を回収。
Airbnbを使った旅行8400万ドル → 平均手数料25ドル(80ドル×3泊) → 2021年までの予想収益21億ドル
P8 ユーザ獲得戦略
①イベントに広告を出す
②安い旅行を提供する他のサービスと連携する
③Cragigslist.com(地域情報交換コミュニティ)への情報反映
P9 競合企業
縦軸に料金(手頃、高価)、横軸に取引方法(オフライン、オンライン)のポジショニングマップに、競合各社と自社のロゴを配置し、違いを表現。
P10 競争上の優位性
①「初参入」一時的な住居の取引サイト市場の初参入者である。
②「貸主のやる気を起こす」部屋の貸主は、Couchsurfing.comを利用するよりも利益が得られる。
③「登録は1回」私たちを使った場合、貸主は一度投稿すればいい。Craigslist.comでは、(貸室の情報を)毎日投稿しなければならない。
④「使いやすい」料金、場所、チェックインとチェックアウトの日付で簡単に検索ができる。
⑤「プロフィール」貸主のプロフィールを見ることができ、3クリックで予約ができる。
⑥「デザインとブランド」記億に残りやすい名前を歴史的なDNC(米国民主党全国委員会)で売り出し、人々の心を掴んだ****。
P11 チーム
●Joe Gebbia(UIと広報)
●Brian Chesky(事業開発とブランド)
●Nathan Blecharcyk(開発)
P12 報道
webware.com、joshspear.com、 mashable.com、springwise.comの4つのサイトの記事の中の一文をロゴと共に紹介。
P13 利用者の声
4名の利用者の声を写真付きで紹介。コメントの内容は、ひとりが、Airbnbは、とにかくすばらしいというもの。その他の3人は、それぞれ「P3 解決策」の①節約、②利益を得る、③シェアカルチャーを裏付けるもの。
P14 財務
●「Airbnbで8万取引を達成するために、12ヶ月間の融資を希望しています。」
●エンジェル・ラウンド(初期投資機会):50万ドル
●Airbnbを利用した旅行8万件×平均25ドルの手数料 → 12か月の収益200万ドル
P2~14共通
フッタに、住所、電話番号、メールアドレス。
特徴
ピッチの内容
どんなサービスで、どこが特徴的なのか、聞いている人にどうしてほしいかが明確です。目標とそれが実現可能であることを裏付ける材料が、整理され明示されています。
各ページは、2、3、4または6のブロックや項目で、構成されているため、その項目の情報量を瞬間的に把握でき、次にどこに視線を移すべきかも非常にわかりやすくなっています。
できる限り短くした文章と、シンプルな図で、直感的に情報を理解できるように作られていることも、ぜひ真似したいポイントです。
「してほしいこと(出資)」を聞き手が選択する合理的理由が、聞き手の思考の邪魔することなく、聞き手を疲労させずに、理解できるようになっています。
「P8 ユーザ獲得戦略」の3項目は、ピッチに書かれている情報だけでは、いずれも平凡で、それがどのくらい有効なのかがわかりにくいですが、このピッチの時点で、Airbnbは「①イベントに広告を出す」で、すでに大きな成果を挙げていました。
2008年にデンバーで行われたDNC(米国民主党全国委員会)は、バラク・オバマ氏のスピーチをより多くの人が聞けるよう、会場を収容人数18,007人のペプシ・センターから、収容人数76,125人のインベスコ・フィールド(現スポーツ・オーソリティー・フィールド・アット・マイルハイ)に移されました。
しかし、デンバーにはホテルの客室が28,000室しかなかったため、「どこに宿泊すればいいのか?」とマスコミが騒ぎ立てることに。デンバー外の人は、宿泊先を得られ、デンバー在住の人は、収入を得られるという、デンバー内外の人に利益をもたらす解決策を提供できるAirbnbは、デンバー在住のブロガーへのマーケティングを展開。宿泊先の危機を解決する代替解決策として、ニュースでも取り上げられ、アメリカ全土の人にその名を知られることになりました。
さらに、創業者の3人は、選挙フィーバーを利用。当時の社名「AirBed and Breakfast」に絡めて、オバマ氏とマケイン氏のイラストとキャッチーなタイトル「Obama O’s: Hope in Every Bowl!(オバマ・オーズ:一杯一杯に希望が!)」「Capn’ McCains: A Maverick in Every Bite(キャプテン・マケイン:ひと口ひと口に一匹狼が!※Maverick一匹狼は、マケイン氏を象徴する言葉)」が描かれた投票を呼び掛ける「数量限定」のシリアルを制作し、販売しました。販売用のシリアルは、ひと箱40ドル(!)。結果的に約3万ドルの収益になったといいます。印象を残すだけではなく、資金調達もしてしまうというプロモーションを行っています。****
ちなみに、40ドルのシリアルは、独自に作ったパッケージに、スーパーマーケットで買った最も安いシリアルを、創業者の3人が詰め込んだものだったそう。*****
ピッチのデザイン
当時のロゴに合わせて作られています。
表紙に掲載されている当時のロゴは、ピンクとブルーの組み合わせで、使われているフォントや配色が子供っぽく、提供するサービスのフィールドともターゲットとも一致していません。現在の頭文字をベースにしたシンプルなロゴ(Webサイトヘッダー左端。デフォルトは黒背景なので白抜きですが、スクロースするとロゴカラーに切り替わります)の方が、すっきりとしていながら、印象に残り、かっこいいですよね。色も、同じピンクでも、紫に近い青みの強いピンク(#EB018A)から、赤みよりのピンク(#FF385C)に変わっています。
ピッチで使われているフォントや配色の全体的なバランスは悪くはないですが、フォントの種類も色数も減らした方が洗練されたイメージになるでしょう。
使っているフォント:
各ページのタイトルは、ロゴと同じ丸みを帯びたゴシック体を使用。では、シンプルなゴシック体、図の中では、幅の細いゴシック体の太いものと細いものを使用。
使っている色:
ブルー(#2C9EDD ロゴ、タイトル、文字)
ピンク(#EB018A ロゴ、強調文字)
水色(#E7F8FF スライド枠)
オレンジ(#EB6318 強調文字、図)
黄緑(#99D41E 図(1箇所のみ))
ダークグレー(#635F62 文字)
白(#FFFFFF 背景)
References
*https://news.airbnb.com/about-us/
**https://news.airbnb.com/airbnb-fourth-quarter-and-full-year-2020-financial-results/
***https://www.pitchdeckhunt.com/pitch-decks/airbnb