
これまで毎週水曜日に配信されてきた「SCI-Jウェビナー~スタートアップシリーズ~」のうち、第4水曜日を「Monthly Pitch“7minutes”~五方よしスタートアップが持続可能な日本をつくる!~」としてリニューアルしました。Monthly Pitch”7minutes”では、スタートアップを応援する熱い自治体職員の皆様に「STA-Mem47」として各回ご登壇頂きます。
今回は岩手県/八幡平市の中軽米真人さんにインタビューを行いました。
「変化を受け入れる土壌のある街」八幡平市
―まず八幡平市の特徴を教えてください。
八幡平市は岩手県の北西部に位置し、幕政時代の南部盛岡藩における交易の要衝として栄えました。明治末期から本格的に開発された松尾鉱山が栄えたものの、閉山を受けて昭和30年代後半からは次世代の産業として観光へシフトし、高度経済成長に伴う空前の観光ブームやバブル経済を捉えて、まち全体の産業構造の転換に成功。この転換を機にミドル層からアッパー層まで、幅広い層に支持される観光地として再生されました。現在では、「農(みのり)と輝(ひかり)の大地」という市のキャッチフレーズのもと、農業と観光の二つの産業に注力しています。
一方で、人口は1960年から減少の一途をたどっていました。自身で様々な資料を集め分析した結果、市内で生まれた人口の約3割が22歳までに市外に流出し、20年周期で出生数が半減している事実に突き当たりました。そこで、県内大学の就職先や県外へ流出して戻らない人を調査したところ、働きたい仕事が無い為に仕事を求めて市外に出てしまっていることがわかりました。望む仕事がないのであれば作り出せば良いのではないか?この仮説を検証するため「起業志民プロジェクト」を始めることにしました。
起業を志す人を応援すべく「起業志民プロジェクト」を企画・実施
―Youtubeのホリエモンチャンネルで中軽米さんが、「起業志民プロジェクト」をプロモーションされている動画を拝見しました。改めて当プロジェクトについて教えてください。
本プロジェクトは、起業を志すすべての人を応援するため、2015年に始まりました。無償でプログラミングなどを教える「スパルタキャンプ」が起点となり、修了後には八幡平でビジネスを始めたい人を応援するためシェアオフィスを5年間無料で提供し、事業計画の策定から資金調達までをハンズオンで支援しています。起業したメンバーたちが、後進の起業家志望者の育成に当たるという、起業家育成エコシステムを形成しています(下図)。
画像提供:八幡平市
「スパルタキャンプ」はIT起業家を志す人なら国内外を問わず誰にでも、プログラミングなどの技術に加えビジネスの組み立て方やマーケティングなど必要な知識を1カ月あまりに渡って教えます。期間中に滞在可能な宿舎も含めて無償で提供しています。現在では1回の募集定員15人に対して国内外から数十倍の応募が殺到するまでになっています。
成果として、人口2万4千人しかいない過疎地ながら、これまで市内に10社以上のIT企業が立ち上がり、さまざまな事業が展開されています。例えば、市内の参画企業の人事機能を一括管理するサービス「まちの人事部」は卒業生が設立したAqsh(アクシュ)株式会社が市と連携し運営しています*。過疎地であっても、その気になれば世界を相手にしたビジネスをすることができる。そんな世界線を創り出しています。
起業志民プロジェクト:https://www.kigyoshimin.com/
ホリエモンチャンネル(中軽米さん出演回):https://www.youtube.com/playlist?list=PLFv3_vWJkXdXF7zuKw9bvQvWkl6iaOnkt
持続可能な地域社会の実現を目指す「八幡平市メディテックバレーコンソーシアム」
―日本だけでなく世界から参加者が集うプロジェクトは魅力的ですね。このプロジェクトは、全国各地から反響を呼んでいますが、プロジェクトを更に進化させるための次の課題は何だとお考えでしょうか?
国全体の人口の減少が続いている限り、国内で人口増を目指すのは、単なるゼロサムゲームでしかありません。これからの課題の一つは、「人口が減っても維持できる社会システムの実現」です。
八幡平市は人口減によって消滅の可能性さえ危惧されています。医療や福祉といった社会システムを維持するための人も予算も不足し、生まれ育った地域に住み続けたいと願っても叶えることが困難になっています。
そこで、過疎地において人口が減っても医療や福祉を持続的に提供するべく、八幡平市メディテックバレーコンソーシアムを2021年6月に設立しました。遠隔診療・見守りサービスの実装からプロジェクトのスケールアップに必要となる人材の育成までトータルで行うことで、過疎地に新たなメディテック産業(先端テクノロジーを医療に活用した産業)を創出し、これまでにない新たな地方の姿をプロデュースしています。本事業は、内閣府が手掌している地方創生推進交付金Society5.0タイプにおいて、本年度新規に採択された全国5事例の1つです。
八幡平市メディテックバレーコンソーシアム:https://8mv.biz/
地方創生推進交付金Society5.0:https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/society5type.pdf
*地方創生の観点から取り組む、未来技術を活用した新たな社会システムづくりの全国的なモデルとなる事業を選定し支援するべく2020年に新たに設置された交付金。
人口が減っても持続可能な社会を実現する先例を作り、他の自治体に普及させる
―ここからは中軽米さんご自身の価値観についてお聞きしたいと思います。これまでにご自身の取り組みを様々な媒体を用いて発信されていますが、ほかの自治体に対する発信も兼ねているのでしょうか。
はじめは他の自治体にも真似してほしいという考えから、様々なイベントでプロジェクトを発信していましたが、「すごいですね」という声はあっても「やりたいです」と言う方は一人もいませんでした。
そこで、普及の方法を変え、八幡平市として圧倒的に成長したスキームを提示できるように取り組み、先進事例として取り上げてもらうことで、結果的に全国の自治体に模倣してもらおうと考えましたが、この方法も難しいと分かりました。本プロジェクトは、育成された起業家が講師となり次世代の参加者にノウハウを引き継ぐことに本旨がありますが、これを完遂するためには、様々な初期費用だけでなく、ベンチャーキャピタルとの人脈等も必要となります。幸いにも私は自身の経験と人脈を駆使し、公式ウェブサイトのコーディングからプログラミングやマーケティングの指導に至るまで自力で行えたため、低予算で始めることが出来ましたが、過疎地域のあらゆる自治体が全く同じ方法でプロジェクトを行うことできないと感じました。
そこで、内閣府が所管している地方創生交付金Society5.0タイプ(前注参照)に認定いただき、このプロジェクトに参画するだけで「人口が減っても持続可能な社会を実現するための仕組みを作り、普及させることができる」という方向で、人が少ない地域でも取り入れられる仕掛けを模索しています。
住むところに関係なく、職種も働き方も自由に選べる世界観を創り出す
―最後に中軽米さんご自身のお考えをお聞かせください。
人生において一番長い時間を過ごすのは、仕事です。しかしながら、我が国において仕事に意欲的に取り組んでいる人は非常に少ないと言われています。仕事を嫌なもの、つらいものと認識しながら取り組んでも成果は上がりません。事実として、労働生産性の国際比較においても、日本はOECD加盟37カ国中、21位と沈んでいます。そして、何より最もリソースを費やしているものが嫌なもの、という人生は不幸です。逆説的ですが、仕事が楽しければ人生は愉しくなる、ということでもあります。
住みたいまちランキングに見られるような「住んで楽しいまち」は、流行に左右されやすく栄枯盛衰も激しいものですが、「働くのが楽しいまち」であれば、普遍的な価値観として受け継がれるものになり得ます。
都市の発展と衰退にはいくつかのパターンがありますが、多くの過疎地が陥っているのは、親から次世代に「住み継がれない」ということです。その要因の一つが、望む仕事がないことや、あっても存在を知らないという点です。これから住む場所として選ばれて、生き残ることができるまちは、望む仕事があり、その存在を認知できる。つまり「過疎地域に住んでいても職種や働き方を自由に選べるというまち」だと仮説を持っています。これからも多くの仲間たちの力を借りて仮説を検証し、「働くのが楽しいまち」を実現していきます。
過去にも数十年スパンで産業構造の転換を幾度も体験し、それを乗り越えてきた、変化を受け入れる土壌のあるこの地域であれば、十分に実現可能であると確信しています。何より八幡平市のようなあらゆるリソースが不足する過疎地で、これを実現できたら、「最高にやべぇし、最強におもしろい!」に決まっています。
おもしろいか、おもしろくないか。自分の人生における価値基準は、これしか持ち合わせていません。これやったら最強に面白そう、だからやる。理由なんて、そんな程度で十分です。
仕事が楽しければ、人生は愉しいっていうのは、こういうことです。
編集後記
「意志あるところに道あり」中軽米さんとのインタビューを終えた感想です。起業志民プロジェクトの立上げに際し、従前に持っていた人脈やノウハウ以上にプロジェクトの公式サイトの開発・運営から、参加者に対するプログラミングやマーケティングの指導まで、あらゆる困難を跳ね除け、「ないもの」を作り上げていく力強い意志を感じました。昨今自治体でも様々な採用方式が取り入れられ、ダイバーシティが進んだ結果、より志のある自治体職員が輝ける時代になってきたと聞きます。自由度が増した社会変化に感謝しながら、私自身も社会に大きな価値を生み出していけるよう走り続けたいと思いました。
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