自治体

スタートアップ・エコシステムを県内で作り出す【和歌山県】| STAEN #注目の自治体 No.6


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Kotaro Morimoto

慶應義塾大学法学部在学中。学生のための政策立案コンテストを主催する学生団体GEILでの活動、国立台湾大学への留学を経て、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社のLEAPOVERチームでインターン中。スタートアップ関連の取り組みや制度について学んでいる。

STAENマガジン【注目の自治体】シリーズでは、スタートアップを応援する熱い自治体担当者にフォーカスし、自治体独自のスタートアップ支援や担当者の思いを紹介しています。

今回は和歌山県の山田遼太さんにインタビューを行いました。

海山川が揃い、自然環境が整うエリア「和歌山県」

―まず和歌山県の特徴を教えてください。

和歌山県は、大阪府の南、奈良県の西に位置する県で京奈和自動車道や阪和自動車道等の高速道路により、大阪府や京都府といった大都市や関西国際空港へのアクセスが良い県です。また、世界遺産である高野山や全国有数のリゾート地である南紀白浜などを有しており、観光地としても栄えています。最近ではワーケーション需要の拡大に伴い、白浜を拠点に活動する事業者が急増しています。

全国と比べ、和歌山県の産業は生産額における第2次産業の割合が高く、特に繊維工業や、金属・化学工業に強みがあります。また、就業者においては第1次産業で働く方の割合が高く、県としてはスマート農業化の必要性を感じている一方で、大多数の農家で従来型の農業が行われているのが実情です。一方で、農業系スタートアップの株式会社農業総合研究所が2016年に上場するなど、県の強みを活かした起業ケースも存在します。第3次産業については、全国平均と比べて生産額の割合も就業者の割合も低いです。また開業率についても全国平均4.4%のところ、和歌山県内の開業率は3.4%*1と厳しい状況です。その背景には「第三次産業への就業や起業をするなら、大阪などの大都市の方が良い」という考えのもと、県内の人材が近隣都市に流出していることがあると推察しています。経済縮小や人口減少に歯止めをかけるためにも、関西で和歌山県が選ばれるための県独自の強みを活かし、起業・第二創業を促進することが急務です。

*1 中小企業白書(2019年度)


白浜のシンボル円月島。最近では白浜でのワーケーションが人気だ。

スタートアップを本気で鍛える県直営型イベント

―和歌山県は、スタートアップ支援の一環としてスタートアップ創出支援チームとのマッチングイベントを主催されています。イベントの背景やねらいを教えてください。

スタートアップ創出支援チーム(以下、支援チーム)とのマッチングイベントは2016年から開催しています。県内で起業するスタートアップの母数の増加に伴い、和歌山県最初のスタートアップ支援として当イベントが企画されました。企画当初の目的は県内スタートアップを各方面から「鍛える」ことにありました。つまり、県内で起業されたビジネスをスモールビジネスで終わらせるのではなく、全国展開できるようなスタートアップビジネスにするべく、スタートアップ支援に精通した多様なステークホルダーに参画をお願いしました。

スタートアップ支援に精通した多様なステークホルダー。和歌山県HPより引用。

―支援チームには起業家支援機関が5社も参画していますが、一般的に自治体が開催するイベントを複数の起業家支援機関がサポートすることは珍しいように思います。

これは当イベントが「県の直営」で行われているという特徴に起因するものです。多くの自治体はスタートアップ関連のイベントを企画する際、1社の起業家支援機関に委託し、運営をお任せする形が多いと認識しています。一方で、当イベントの場合、和歌山県が運営主体としてすべての行程を計画・実行していることから、上述のような多様な民間のステークホルダーが、フラットに参入して頂けるよう意識しています。その結果、支援チームとのマッチングに成功した場合は、ベンチャーキャピタル(以下、VC)や地域金融機関からの資金調達、大企業との事業提携、複数の起業家支援機関からのメンタリングや販路拡大サポートといった個別支援に加え、多角的な視点からのフィードバックや業界を跨いだ人脈構築ができる点が画期的です。

成果としましては、2018年に高速三次元計測技術を持つ和歌山大学発スタートアップ、4Dセンサー株式会社が株式会社JR西日本イノベーションズから約4,700万円の出資を受けたことや、マイクロモビリティを手掛けるglafit株式会社の認知度向上に寄与*ました。

その他のスタートアップ支援には、「ベンチャー企業誘致制度」や、「和歌山アクセラレーションプログラム」の実施、「先駆的産業技術研究開発支援事業」などがあります。

*2 イベント参加を通じて県内外の企業との実証機会、資金調達を達成し、日本初の法的車両区分(自転車・電動バイク車間)を切り替えられるバイクを発売。2021年度J-StartupKANSAI認定企業。

 

和歌山発起業ロールモデルの創出を通じた開業率向上

―スタートアップ支援の目的について教えてください。

現在は、「和歌山発の起業ロールモデルの創出」を通じて県の課題である低い開業率を改善したいと考えています。例えば、前述の企業誘致制度では、VCからの出資を受けていることを制度利用の要件にしています。これは、「そのスタートアップが一定以上の事業規模(ステージ)で成長の見込みがあり、地元企業と実証・協業して頂けるレベルである」ことの一つの証明となるからです。この要件をパスしたスタートアップを支援することが、県内で起業ロールモデルを創出するうえでの最速の最適解であると判断しました。この起業ロールモデルの創出・確立により、自治体と県民が共に起業(家)に対する向き合い方や起業の持つ経済効果などの理解につながり、県全体の起業機運が高まると考えています。まずは継続的にイベントを開催し、イベントに応募してくださるスタートアップの母数を増やすことを目先の短期目標としています。

一方で、誘致に関しては、「誘致対象を絞り切れていない」という課題があります。スタートアップのステージに条件を設けた一方で、「和歌山県には全国有数の○○産業があるので、××系スタートアップを募集します。」といったターゲット設定ができていません。この点に関して、私自身も強い課題意識を持っており、早急にターゲットの設定と公表ができるよう取り組んでいきます。

 

スタートアップ・エコシステムの形成に向けて

―最後に山田さんのスタートアップへの思いについてお聞きします。山田さんは経済産業省に出向し、J-Startup*事業に携わられる経験をお持ちですが、実際に国のスタートアッププロジェクトに携わったことで、どのような収穫があったのでしょうか。

実は出向を経験するまでスタートアップを強く認識していたわけではありません。むしろ「お金儲けをしたい人が胡散臭い事業を立ち上げているもの(笑)」という印象を持っていたのですが、実際にJ-Startup事業に携わることでスタートアップが大企業の中では生み出されない経済成長の起爆剤になりうるということ、また多くの起業家が「自分のソリューションで問題を解決したい」と熱い思いを持って社会課題に向き合っていることを肌で感じました。新しい価値観や世界に触れ、学びの多い時間を過ごした経済産業省での経験を経て、スタートアップの人たちと話し熱い思いやアイデアを聞くことが好きになりました。

個人的には、県内完結型、または関西全域でスタートアップ・エコシステムの構築に携わっていきたいと考えています。

本県は、他の都道府県と比較して「行政機能がコンパクトに集約されている」という特徴を持ちます。これにより、自治体による支援において実現の難しい複数部署を跨いだ支援ができます。加えて、現状は県内スタートアップの絶対数が少ないため、スタートアップ個社ごとのニーズに合わせた濃い支援ができる点は強みだと思います。今後は、この県独自の強みと県内の大企業のリソースと、和歌山大学や県立医科大学などの研究機関を活用し、県内完結型スタートアップ・エコシステムの実現に向けた取り組みを加速させていきます。

*3 経済産業省が主催するスタートアップ育成支援プログラム

 

編集後記:

スタートアップ創出支援チームには和歌山県の関係者だけでなく、関西の大企業が参画していることから、関西ワンチームで産業面のサポートを受けられる点は珍しいのではないかと感じました。インタビューの中で、山田さんが「関西の中でも和歌山県を選んでもらえるためには重点支援テーマの設定が急務である」と仰っていました。県として支援対象の定義づけ、強みの宣伝ができれば山田さんの目標であるスタートアップ・エコシステムの県内での実現に一歩前進すると思います。私も和歌山県に所縁がありますので一層和歌山県にスタートアップ支援の土壌が育つことを心から期待しています!

 

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