
今回紹介するスタートアップは、株式会社Acompany。
株式会社Acompanyは、第4期LEAP OVER*の採択企業であり、プログラムを通じて複数病院間での医療データの共有実証を行い成功。秘密計算分野のパイオニアとして注目のスタートアップ企業に成長しました。
本記事では、起業経緯やサービス紹介、LEAP OVERを通じたパートナー企業・自治体との協業による成果についてまとめました。
*三菱UFJリサーチ&コンサルティングが主催するPoC型アクセラレータプログラム。
安全な秘密計算環境の提供を通じてデータの価値を促進
DXに取り組む企業の増加によりデータからとれる価値が着目され、データから価値創出がなされるようになった今日でも、データ間の連携は十分に進んでいない。価値を生み出すデータは「ノウハウや競争の源泉」であるか、「プライバシーデータ」であることが多く、「データ漏洩による事業リスクの許容が難しい」と考える事業者が多いという実情を同社、高橋氏は挙げる。更にその背景として、以下の3つの課題があると指摘する。
- データ保護とその活用はトレードオフであること
- 使用されるデータ量の増加や情報通信手段の多様化に伴う情報漏洩時の風評リスクの増大
- 2020年公布の改正個人情報保護法による規制の強化
上記のようなリスクの許容が年々難しくなり、データ連携による価値創出に踏み出しにくいといった課題に対して、「暗号化したまま連携から解析まで可能で、かつデータ漏洩のリスクを伴わないサーバー環境の提供」を通じて解決を図るべく起業を決意した。
手軽・高速な秘密計算エンジン「QuickMPC」を提供
Acompany社が提供する「QuickMPC*」は、高度な専門性と技術力が必要な秘密計算環境をサーバーにインストールするだけで実現する秘密計算エンジンだ。
当サービスの強みは「手軽に、高速な秘密計算」を提供できることだ。一般的に、事業者にとって秘密計算の利用には高いハードルがある。その理由としては、秘密計算自体が黎明期にあり、知見の集積が十分でないために独自での実装が困難であること。分析の高速化を目指す場合には専用のアルゴリズムから設計する必要があり、大きなコストがかかることが挙げられる。しかし当サービスは、秘密計算環境の構築をアプリのインストールだけで可能とし(手軽)、独自の高速化手法の発明(特許出願済:2021年11月時点)により高速な秘密計算を実現した(高速)。
また、日本で独自開発のMPC秘密計算エンジンを手掛けている企業は複数社存在するが、製品化を完了しているのはAcompany社と大手IT企業の2社のみである。独自の特許技術と低コストを武器に、競合と差異化することで早期の事業拡大を目指している。
当社はこの技術を用いて、複数企業が保有する顧客情報や位置情報を秘匿したままで「マーケティング分析」や「GPS情報分析」を実装、またデータ分析企業に対しては、秘匿データの提供のみで分析が完了する環境を提供する。
*マルチパーティ計算の略称で、複数のサーバーが協力して行う秘密計算技術のこと。秘密情報の分散が特徴。詳細はAcompany社ブログ記事を参照ください。
PoCを通じて複数病院間での医療データ分析が実用レベルで実装可能に
当社は以下の2つのビジネスモデルを持っている。
- 「QuickMPC」のソフトウェアをサブスクリプション(月額ライセンス方式)で提供するモデル
- 「QuickMPC」実用化のためのアルゴリズム開発を含めた導入カスタマイズを行うモデル
現状はサブスクリプションで提供するモデルがメインだが、将来的には後者の導入カスタマイズで必要なアルゴリズム群をライブラリー化し、提供していく。
秘密計算分野は黎明期にあり、先述のように国内でもMPC秘密計算エンジンをリリースしている企業は2社に留まる。そのため先例や知見が十分でなく、実証を重ねていくことが必要になる。実証の一例として、当社が「LEAP OVER*」の第4期採択企業に選定された際、クラウドサーバーシステムを持つ三谷産業株式会社と2020~21年にかけて実証実験を行った。本実証では、高度なプライバシー保護が求められるために、従来病院ごとに管理され共有されることのなかった医療データの複数病院間での共有実験を行った。結果、計6万人の医療データを当社の秘密計算エンジンを使って暗号化することにより、データ漏洩等なく複数病院間で安全に共有することができた。加えて、データ分析においても生データの分析と同精度で実施できることも確認でき、複数病院の持つ医療データのプライバシーを保護したまま、医療データの分析が実用レベルで実行可能であることが証明された。
なお、非常に高度なプライバシー保護が求められる医療データの共有に成功したことから、プライバシー保護が求められる他の様々な分野における当社秘密計算エンジンの活用可能性についても自信を深めることができた。現在では、例えば、政府や地方自治体の持つ国民や住民のデータの分析についても実証実験を進めている。
*三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が主催するPoC型アクセラレータプログラム
各種クラウドサーバーでのデファクトツールを目指す
短期目標として、上述の2つのビジネスモデルを一本化し、QuickMPCのみで秘密計算を利用できるようにしていくことを想定している。つまり、秘密計算専用アルゴリズムの開発・導入に当たりアルゴリズムの開発やカスタマイズを必要とせず、専門知識がないユーザーでも自力で行えるようなサービスに進化していく。2021年10月には、秘密計算による高度なアルゴリズム群「Privacy AI」をリリース。リリース時点では、線形回帰とロジスティック回帰アルゴリズムの利用が可能となった。
そして、長期目標としては、AWS(アマゾンウェブサービス)などクラウドサーバーに標準インストールされているようなツールを目指す。「10年前は通信が暗号化されていなかったが、今は当たり前になっている。データ分析においても同じことが必ず起こる。」という言葉からは秘密計算分野における自社サービスへの自信と、同分野の先駆者としての大きな志を感じた。今後が期待される注目のスタートアップだ。
株式会社Acompany
【 代 表 者 】 代表取締役CEO 高橋亮佑(Ryosuke Takahashi)
【 所 在 地 】 愛知県名古屋市中村区名駅1-1-3 名古屋大学オープンイノベーション拠点
【 Vision 】 なめらかなデータ活用社会
【事業概要】 秘密計算システムの設計、開発、販売。データセキュリティに関するコンサル業務
【 U R L 】 https://acompany.tech/
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LEAP OVERとは?
今回紹介した「株式会社Acompany」は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が主催するアクセラレータープログラム「LEAP OVER」の第4期アルムナイです。
LEAP OVERは、
- スタートアップ企業
- パートナー企業(大企業・地域中核企業)
- 協力自治体
の3者をつなぎ、社会課題をビジネスで解決するPoC型アクセラレータプログラムです。
詳細は、下記URLからご確認ください。
https://www.digitalsociety.murc.jp/leapover/accelerator/5.murc
お問い合わせはこちら
leapover-accelerator@murc.jp